フェルメール展と東京Midtown X’mas Illumination

国立新美術館で開催中のフェルメール展(正式には、フェルメール「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展: 2007年9月26日~12月17日)に行ってきました。

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ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》
1658-59年頃 油彩、カンヴァス 45.5×41 cm
©Rijksmuseum Amsterdam

*公式サイトより引用

9月下旬から行こうと思っておりましたが、今回やっと行くことができました。大変混雑しておりますが、”牛乳を注ぐ女”は必見だと思いました。上の小さな画像でもわかるように、この絵には女性のエプロンとでもいうのでしょうか青い布の部分、またテーブルクロスの部分に青色が使われています。その青色が実際に見ると輝くほど美しく、液晶ディスプレイではなかなか再現できない鮮烈さと立体感がありました。アムステルダム国立美術館が現在(?)回収中らしく、その機にこの絵は日本初上陸ということです。フェルメールは30数点しか作品が残っていないようですから、日本で見るのはおそらく最後になるかもしれませんね。この絵を可視光以外の波長で科学的な分析もおこなっており、絵の右下の部分に洗濯籠を描こうとした痕があるようです。解説によるとそこに仮に籠があった場合絵全体の印象が変わってしまい、ここまで有名になったかわからないとまで解説してありました。写真でも構図というのはとても重要で、この”ない方が良い”という感覚は、柿右衛門の余白の美に通じるものがあるかもしれないですね。

今回フェルメール展となっておりますが、コンセプトとしてオランダの当時の風俗画を中心に構成されています。システィーナ礼拝堂で見たような宗教画ももちろんすばらしいと思いますが、人類の進化・歴史が好きであるため、風俗画というのはとくに興味を持っています。たとえば、賭博、女性を口説いている老人、男女の恋愛、家族団欒の光景など当時のオランダの生活が伝わってきました。はっきり言って今と変わっていないですね。

国立新美術館は場所が良く企画展を全部行っている気がします。昔は美術館といえば上野というイメージがありましたが、最近は六本木といった印象です。世界の名画を(各国は迷惑だと思いますが)こうやって気楽に見られるのは良い時代だと思いました。

さて、フェルメール展が混んでいたため一回りに2時間くらいかかってしまいました。すっかり周りも暗くなっていたので、ニュースで報道されていた東京ミッドタウンのクリスマスイリュミネーションを見に行ってみることにしました。昔は表参道の木々のイリュミネーションが黄色で綺麗だと思いましたが、六本木ヒルズに代表されるように最近は青・白系が多いですね。東京ミッドタウンでも例外ではなく、むしろやり過ぎ感たっぷりで目が痛くなりました。

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芝生の一面に青いLEDが置かれています。青い絨毯のようなイメージなのかもしれませんが、私にはこのセンスはあまり響きませんでした。とにかく派手にしておこう位の意図しかくみ取ることができず、私のようなセンスのない人間には良い写真の構図が浮かびませんでした(ので、とりあえず適当に撮ったものを掲載)

建物側には、塔のようなオブジェクトがあり人がたくさん集まっていました。

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中はこんな感じです。

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色も定期的に音とシンクロして変わっていました。教会の鐘の音も鳴っており(もちろん録音のもの)、いったいどこの国なんだろうかと、思いました。

木々にLEDを巻き付けるのはまだフラクタル的な要素があるので良いかと思いますが、とりあえず青いLEDをいっぱい光らせておけといった印象が残念でした。とはいえ、これはイベントですので、カップル、家族で綺麗だねと単純に楽しめば良いものだと思います。むしろでかいカメラで男一人で写真を撮り素直に綺麗だと思わない私の頭の方が心配です(笑)

ブーニンコンサート@サントリーホール

11月18日(日)サントリーホールで行われたブーニンのピアノコンサートに行ってきました。
考えてみればサントリーホールは改修後初めて訪れました。どこが改修されたかわかりませんが、やはり紀尾井ホールなどに比べれば響きが良いホールであると感じました。

さて曲目。

J.S.バッハ=W.ケンプ:目覚めよと呼ぶ声あり BWV645
ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番ハ短調「悲愴」Op.13
シューマン:アラベスク Op.13
ベートーヴェン:ピアノソナタ第17番ニ短調「テンペスト」Op.31
ショパン:舟歌 Op.60
(アンコール)ショパン、マズルカとワルツ(?)かな。

最初は固い演奏でしたが、休憩を挟んだテンペストあたりからとても良い運指になってきました(失礼ですが)。ベートーヴェンのソナタも素敵でしたが、やはりショパンコンクール優勝者だけあって、舟歌とアンコールのショパンの2曲はとても素晴らしかったです。ブーニンを聞いたのはおそらく7,8年ぶりかと思います。前回はあまり気にならなかったのですが、今回ペダリング時に床を蹴る動作が多く、結構耳に付きました。ああいう弾き方と言えばそれきりですが、もう少し抑えても良いのかなと思いました。ピアニッシモにあたりの表現はさすがといった感じです。S席でアリーナ席だったのですが、位置がピアノに対して左側でしたので、音響的には若干不利な場所でした。一方で久しぶりに聞いたスタインウェイはやはり素晴らしい音がしました。音の周波数でいうと、テンペスト3楽章あたり結構40Hz付近の音が出ているように感じました。スピーカーセッティングの参考になりそうです。

さて、2時間の演奏を聴いている時にクラシック音楽についていろいろ考えていました。クラシック音楽は人類にとってのある意味究極のディジタルデータかなと思いました。私などスピーカーを作ったりするのを楽しんでいる人間としては、CDなどのディジタルデータをいかに信号のまま部屋に再現するかを目指してスピーカーを調整しているわけです。今は、マイク技術も録音技術も発展しているため、ピアニストなりアーチストの出した音を保存することができるわけですが、ベートーヴェンを始めクラシックの作曲家たちは、音ではなく楽譜というディジタルフォーマット(音が劣化しないという意味でのディジタルと表現する)で数百年を超えて音を残している訳です。今回のブーニンももちろんべートーヴェンを会ったことはありませんから、ベートーヴェンの曲に込めた思いは、楽譜というデータ以上には存在しないわけです。その解釈の違いとテクニックで現代まで演奏され音になっているわけですから、クラシック音楽はディジタルデータかなと思ったわけです。ベートーヴェンが300年後の年末に毎年第9が世界中で歌われていることを予期したかわかりませんが、今後も残っていくだろう人類のディジタルデータであるクラシック音楽をこれからも楽しんでいこうと思いました。

携帯電話によって飛行機が離陸できなかったという報道について考える

今回の内容は、先日起きた全日空機が、乗客の携帯電話の電源切り忘れで航空無線にトラブルが発生し、離陸ができなかったという報道に関するものである。

まず、そのトラブルに関して、当日の報道を引用してみる。

<全日空機>長崎空港で無線不通に 携帯電波が原因か

10月17日21時8分配信 毎日新聞

 17日午前9時10分ごろ、長崎空港(長崎県大村市)で、長崎発羽田行き全日空662便(ボーイング767-300型)が誘導路を走行中、操縦室と管制塔を結ぶ3系統の無線がいずれも使えなくなり、駐機場に引き返した。全日空は、乗客の携帯電話の電波が原因の可能性もあるとみて調べている。

 全日空によると、機内アナウンスで携帯電話の電源を切るよう再度アナウンスしたところ、乗客1人が電源が入っていたと申し出た。この乗客が電源を切ると、無線機は復旧したという。

 同機は計器類に異常がないことを確認し、約50分遅れで長崎空港を離陸した。乗員乗客233人にけがはなかった。

この記事をお読みになり、どういった印象を受けるだろうか?飛行機では離陸前に”携帯電話”などの電波を発生させる機器の電源を切るように何度も注意を受ける。私ももちろん電源を切っているが、今回の事故は、読者に”やっぱり携帯電話を切らないとあぶないんだ。”という印象を持たせたのではないかと思う。一方で、私を含め、少しでも通信に関わったことがある人であれば、この記事は逆に違和感がある。あれだけ周波数の割り当てが厳密に行われている(参考:総務省 電波利用ホームページ | 周波数割当て・公開)にも関わらず、本当に携帯電話の周波数と何チャネルもある航空無線の周波数が干渉するのか?といった疑問である。

実際の原因は、

無線障害「携帯」シロ 全日空、原因はコード破損

長崎空港で17日、全日空機の航空無線が通信不能となったトラブルで、総務省は29日、無線設備に原因があったとして、同社に再発防止や点検の改善を要請した。当初、原因とみられていた乗客の携帯電話には因果関係は認められなかった。

 全日空機は17日午前9時10分ごろ、長崎空港離陸直前にVHF(超高周波)無線が送信不能となり出発が約45分遅れた。機内では乗客1人が携帯電話の電源が入っていたことを申告。直後に無線通信が回復したため、携帯電話の電波が原因となった可能性が指摘されていた。

 総務省は25日、同機を臨時検査し、機長席のハンドマイクのコード破損を原因と特定した。芯(しん)線が露出して金属に触れ、無線障害を引き起こしたという。

 全日空は再発防止に努めるとしたうえで、「トラブルの原因とは別に、機内での携帯電話使用は航空法で禁止されており、周知に努めていく」(広報室)としている。

原因は、コード破損であり、携帯電話ではなかった。予想通りといった感じである。今回の原因調査結果を報道しているマスコミは少ない。おそらくこの程度の記事であり、テレビで報道されていることはないと思う。きっとその日に起こっている新しくて、もっと視聴率の取れる事件を報道しているだろう。あの報道はTVも含め事故当日に一斉に世に流れそのほとんどの人が、携帯電話が原因で、切らなかった人が悪いという印象を一気に持たせたと思う。そういう意味で、政治・政府とは関係ないが、一種のプロパガンダみたいなものであると思う。

航空法では、

(安全阻害行為等の禁止)
第百六十四条の十五  法第七十三条の四第五項 の国土交通省令で定める安全阻害行為等は、次に掲げるものとする。
一  乗降口又は非常口の扉の開閉装置を正当な理由なく操作する行為
二  便所において喫煙する行為
三  航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為であつて、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持に支障を及ぼすおそれのあるもの
四  航空機の運航の安全に支障を及ぼすおそれがある携帯電話その他の電子機器であつて国土交通大臣が告示で定めるものを正当な理由なく作動させる行為
五  離着陸時その他機長が安全バンドの装着を指示した場合において、安全バンドを正当な理由なく装着しない行為
六  離着陸時において、座席の背当、テーブル、又はフットレストを正当な理由なく所定の位置に戻さない行為
七  手荷物を通路その他非常時における脱出の妨げとなるおそれがある場所に正当な理由なく置く行為
八  非常用の装置又は器具であつて国土交通大臣が告示で定めるものを正当な理由なく操作し、若しくは移動させ、又はその機能を損なう行為

航空法では、”航空機の運航の安全に支障を及ぼすおそれがある携帯電話”と書いてあり、3G携帯は、周波数も圧倒的に航空機と違うので支障を及ぼすおそれはないのではないか?と思うが、一般論としてダメであるため、この点を守らなかった今回の乗客は非はある。一方で、”電源を切り忘れていたことを名乗り出た勇気”を考えてみると、結構良い人なのではないかと少し擁護してしまう。もし切り忘れていても隠しておこうと思う人は、”50分間離陸ができずストレスがたまっている200人の機内の状況”を考えると少なくない気がする。

事故当日、全日空がどういう報道発表をしたかは、新聞記事でしか知る術はないが、上記の記事を見る限り”携帯電話を切った直後に通信が復旧した”という書き方がされている以上、全日空も原因は携帯電話であると判断し、”離陸を許可”した。しかし後の調査で、ケーブルの劣化・破損である。言ってみれば、トラブルを抱えた状態で、”周波数は全く違う携帯電話のON/OFF”と復旧がたまたま時間的に近かったという理由だけで離陸を許可した全日空に問題があると思う。原因究明後の記事で、全日空の広報は、涼しく”原因とは関係なかったが、航空法では禁止されている”なんていうコメントをしている場合じゃない気がした。

現在、この事故当日の記事はウェブから削除されている。この記事だけではないが、最近のウェブ上のニュースは1週間程度経つと削除されるという極めて報道として自信なさげな公開スタイルである。原因がはっきりしない状態で、あたかもそれが真実のように報道される無責任な報道と、(航空法には違反しているが)ちゃんと名乗り出た勇気と、離陸を許可した判断の甘さは問題なかったのか?と思わせる事故であった。我々も厳しい目でこの甘ったれた報道を見ていかなければならないと思う。

*ちなみに、周波数割り当ては政治的には厳密に切り分けられているが、基本周波数の逓倍あたりにピークが出たりすることは、通信機を作っていると普通にありうる現象である。もちろん、通信機としての技適をとるために、規定以外の周波数はフィルタなどで落とすのであるが、たとえばバッテリーが不足したときの不安定な電源状態では変な周波数にピークが立つなどの可能性も皆無ではない(技適審査の際、電力不安定状態での検査はしなかった気がするので)。そういった現象で携帯電話が周波数が違っている航空無線に影響を及ぼさないとはいいきれない。