お茶好きであるため、毎日1回はヤカンでお湯を沸かす。実家で母親が行っていたのを自然とみていたため、普段ガスによる瞬間湯沸かし器でお湯を出し、そのお湯をIHコンロで沸騰させてお茶を飲んでいた。その他、パスタを茹でる時なども、何となく水道水からではなく、瞬間湯沸かし器で加熱したお湯をコンロで沸騰させてつかっていた。熱力学や電気工学による知識から、電気を使った加熱(IHコンロなど)は、ガス加熱に対して無駄が多く、より多くのCO2を排出するのではないかという工学的な感覚があり、この湯沸かし法を実践していたと言える。このエントリーでは、ヤカンでお湯を沸かす際、ガス瞬間湯沸かし器とIHコンロをどのように使うと、最適な湯沸かしを実現できるのかを実験した。
ところでこの”最適”であるが、以下の3点において検討しようと考えた
・光熱費の最適化: もっとも安い方法を検討する。
・人生の時間の最適化: もっとも早く沸騰する方法を検討する。
・CO2などの地球環境に関する最適化: もっともCO2が排出されない方法を検討する。
また現在一人暮らしをしている宮下家の環境は、
・30度~75度に設定できる都市ガスによる瞬間湯沸かし器(風呂の湯張りも利用可能)
・1-9のパワー調整ができるIHコンロ(2口)
以下の各実験に関しての細かいデータは、Excel形式のデータも併せて公開している。
20070805_gas_ih_optimization.xls
(1)IHコンロの電気代計測
目的:IHコンロのMAXパワー(設定9)利用時の電気代を算出する。
方法:家の電化製品を極力OFFにし待機電力を算出し、IHコンロ利用時から差分して求める。家の電力計の円板の回る時間をストップウォッチで計測する。

電気代の算出の参考:http://www.tepco.co.jp/e-rates/custom/kihon/ryoukin/index-j.html
(2)水道代の計測
目的:水道を全開にした場合の水道代を計測する
方法:水道を全開にした状態で、水道メーターの進み具合をストップウォッチで計測する。

水道代の算出の参考:http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/life/index_1.html
(3)瞬間湯沸かし器のガス代の計測
目的:42度および75度に設定した際に水道全開でのガス代を計測する。
方法:42度および75度に設定した状態で水道を全開にし、ガスメーターの進み具合をストップウォッチで計測する。

ガス代の算出の参考:http://home.tokyo-gas.co.jp/userguide/ryo-kin/r_tokyo.html
以上の(1)、(2)、(3)により毎秒のガス湯沸かし、水道、IHコンロの料金が計算できる。
(4)瞬間湯沸かし器の設定温度までに達する時間の計測
目的:瞬間湯沸かし器は設定温度に達するまで水を出しっぱなしにしなければならない。42度、75度の2温度に対して、何秒で設定温度に達するかを計測する。この時間は、当然のごとく、上記のガス代と水道代が加算される。

注意:この時間は、瞬間湯沸かし器をONにして水道を全開にしたときに何秒かかるかを計測している。数回実験したところ、1回目50秒程度だったものが、2回目は30秒近くで達することがわかった。これは、瞬間湯沸かし器が1回目の余熱および配管にお湯が含まれているため時間が短縮したものと考えられる。お茶を沸かすという状況を考えた場合連続でお湯を沸かすことはないため、1回目の時間を計測値として採用した。
ここから実際にお茶を飲むための実験を行う。紅茶、日本茶、中国茶を好んで飲むため、基本3gの茶葉に対して200ミリリットルのお湯を基本にお茶を入れている(もちろん例外は多い)。そのため、今回の実験では、少し多めの400ミリリットルのお湯を沸かすという条件とした。
(5.1)400ミリリットルのお湯を水道水(26度)からIHコンロのみで沸騰させる実験
(5.2)42度に瞬間湯沸かし器で加熱し、そのお湯をIHコンロで沸騰させる実験
(5.3)75度に瞬間湯沸かし器で加熱し、そのお湯をIHコンロで沸騰させる実験

注意1:ヤカンにいれる水(お湯)400mlは5秒程度で出るとした。
注意2:42度、75度設定の瞬間湯沸かし器によるお湯を使う場合、ヤカンに入れることで少し温度が下がるため”約”とした。(実験では400mlを正確に計るため、少し時間が掛かっているので、ここでも温度低下が若干含まれる)
考察:
・光熱費最適:ガスを使わず常温(水道水)からIHコンロのみで沸騰させた方が安い
・人生時間最適:ガスを使って高い温度に加熱した方が総時間は早い
・CO2などの地球環境最適:複雑なので後述
せっかくなので関連する予備実験を行った。
(6.1)ヤカンのフタの有無による沸騰までの時間
(6.2)IHコンロの中心からヤカンの位置を半分ずらした場合の加熱時間
(6.3)200mlちょうどの水(26度)を沸騰させたときのお湯の残量(加熱過程での蒸発量差分)

考察:
・フタの有無:沸騰時間に25秒程度の差が出た(複数回実験を行っていないため誤差は多く含むと思われる)。フタは必須である。
・ヤカン位置ずらし:下の写真のようにヤカンをずらした状態では、明確に沸騰時間が遅い。IHコンロとヤカン底面の重なっている面積に比例するという感覚と一致する。下の写真にあるように、IHコンロの基準線は1つの円である。今回のヤカンの場合、この円より底面の直径が大きく、上に重ねた場合、ヤカンが正確に中央に置かれているかを判断することが難しい。直径の違う同心円の基準円をもっと数を多くすることで、視覚的に中央に鍋・ヤカンがおける工夫は必要であると思う。こういった簡単な工夫で二酸化炭素排出量は少し軽減できる。早速メーカーに問い合わせてみる。

・沸騰までの水量の減量:200mlのお茶を飲むのであれば、沸騰したお湯が200mlあれば良いわけである。不必要な水の沸騰はその分沸騰に時間が掛かるわけであるから、無駄である。一方でこの結果(185ml)ということから分かるように常温から沸騰までに約15mlの水が蒸発してしまう。これは当然のことであるが、このように定量的に計測してみれば、200mlの沸騰のお湯を用意するのに400mlは大過ぎであり、250mlもあれば十分であることがわかる。今回計量カップで量って各種実験を行っていたが、その感覚からすると、200mlのお湯を沸かすのに今まで1L(リットル)くらいの水を無駄に沸かしていた気がする。今後は気をつけたい。
補稿1)CO2などの地球環境に関する最適化について
CO2に関する最適化を定量的に計測・判断することは極めて困難である。熱力学や電気工学を学んだ感覚からすると、IHコンロより、ガスコンロの方がCO2などの排出量は少ないであろうという予想は付く。その理由は、IHコンロでお湯を沸かすために、IHコンロでの電気から熱を作る効率、長距離を送電する際のロス、変圧時のロス、発電時の発電効率など、電気をコンロで使うために実に多くの無駄がある。パソコンなどのように電気でなければ動かないものはしょうがないとして、湯沸かし、風呂、ドライヤーなどの熱を利用するものを、わざわざ電気から作ることに無駄があると感じていたからである。以下に、東京ガスがまとめた同じような視点でのエネルギーを効率したサイトがある。
東京ガス エネルギーの選び方
このサイトによると、ガスは、石炭・石油に比べて温室効果ガス(CO2, NOx, SOx)の排出力が少なく供給が安定している。さらに、私が上で述べたように家までガスが来ているためガスステーションから家までの輸送ロスなどが少なく1次エネルギー(石油・天然ガスなど)で見たときのCO2排出量が少ないらしい。しかし、この点はもう少し考えなければならない。まず、天然ガスが東南アジアをはじめとした海外からの輸入に頼っており、その輸送時のCO2などの排出量はどうなのか?また、発電に化石燃料を使った場合を比較しているが、原子力を使った場合は、多少電送ロスがあっても総合的に見れば電気の方がCO2排出量が小さいのではないか?という点である。世界唯一の原爆被爆国であることと、先日の柏崎原発の事故によりこの国での実現はまだまだ難しいが、各都道府県に原子力発電所を設置し、化石燃料による発電を撤廃すれば、電送ロスも少なくなり、CO2などの排出量が少なくなる可能性もあるのではないだろうか。(もちろん原子力発電に使うウラン・プルトニウムなどの放射線物質を採取するのにエネルギーを要するためその部分を考慮しなければならないが。) 熱力学的、電気工学的な感覚ではIHコンロは無駄が多い漠然としたイメージがあるが、日本のように資源を海外から輸送しなければいけないような国である場合、地球規模で考えた場合のCO2などの排出が本当に少ないか判断が難しくなる。阿部首相などが「1人1日1kgのCO2削減」キャンペーンでCO2排出を削減しようと運動しているが、先日のブログ(閉鎖系での地球環境(温暖化)の考え方)で書いたように、地球規模で考えたときに本当に削減になるかを厳密に考えないとタダの偽善行為の空振りになる可能性がある。現段階では、発電に石油、天然ガスなどを使っているため、おそらくガス利用の方が排出量が少ないが、電送ロスが少ない地域分散型100%原子力が仮に実現したときにどうなるかなどは一考の余地があると思う。こういった様々な背景から、今回の湯沸かしというアプローチで地球環境的な最適法はどちらの場合が良いかを定量的に判断することは難しい。
補稿2)沸騰させる水量を変化させた場合の光熱費
今回の実験では、お茶を飲むという設定であるため400mlの水を沸かすという設定であったが、本来はこの水量を変化させた実験をする必要がある。理想的には水量が増えた場合、増えた体積に比例して熱量が必要になり、そのままIHコンロによる沸騰するまでの時間が増大する。この理想条件を用いて今回の実験結果(400ml)のデータから水量を変えた場合の光熱費を算出した。

面白い結果となった。今回実験した400ml程度では、IHコンロのみによる沸騰が最安であるが、2100ml – 3000ml程度では、42度までガス湯沸かし器で加熱しIHコンロで沸騰させた場合が最も安く、3000ml以上では、75度までガス湯沸かし器を使った方が安いことが分かった。ガス湯沸かし器は、実験(4)に示したようにその設定温度に達するまで約50秒程度かかる。しかし、一度その温度に達してしまうと、その温度のお湯をずっと出せるわけであるから、水量がある一定を超えるとガスを併用した方が安いという現象は容易に考え得る。一人暮らしで3リットル程度のお湯を沸かすことはあまり無いが、大家族とか厨房などの環境ではガス併用の方が良いという結果である。
総合的な考察
何気なくガス瞬間湯沸かし器で加熱し、IHコンロで沸騰させるという湯沸かしアプローチをずっと採ってきていた。漠然と(1)沸騰までの時間が早い(人生時間最適)、(2)CO2排出量が少ない(地球環境最適)、(3)光熱費がガスの方が安い(IHコンロは工学的に無駄が多いため)と考えていたためである。しかし実際に計測してみると、400mlを沸かすという条件では、確かに時間は早いが、光熱費に関しては3倍以上ガス併用した方が高い。この結果により私は今後、ガス湯沸かし器を使わず常温からIHコンロのみで沸騰させることにした。時間の早さはそれほど気にするほどでもなく、一般消費者らしく光熱費が安いからである。CO2に関しては、上述の通り判断が難しいが、地球規模でみた場合の排出量が明確に少ないことが分かればそれを考慮した沸かし方を選択するかもしれない。この観点はこのブログでもっとも述べたい点なのであるが、地球温暖化など認識が広まったとはいえ、まだまだその危機感を有していない人が大半だと思っている。このような社会情勢と資本主義経済の場合、環境問題より光熱費が安い方法を大半が選択するはずである。仮に瞬間湯沸かし器を使ってある程度加熱した方がCO2排出量が少なく、さらに光熱費も安いというのであれば経済原理がそのまま地球環境活動であると思う。日本の政治は荒廃しすぎていて、年金なり天下りなりとても地球環境なんぞに目が回るとは思えないが、このような見えない力で50年後、100年後の地球が少しでも良い環境であるような政治をしてほしいが、年金が無くなっているからまぁ無理だろう。とあきらめずにがんばってほしい。(ガス代を政治でコントロールすることは難しいが)
今回の実験において、IHコンロを主に使って湯を沸かすことになるが、予備実験などで示したように以下の点には気をつけ少しでも光熱費、人生時間、地球環境に最適な湯沸かしとなるように心がけたい。
・ヤカンはIHコンロのセンターにしっかりと置く。また、IHコンロメーカーは、センターに簡単に置けるようなガイド円を工夫してほしい。使っているコンロメーカーにメールは送ってみる予定である。
・フタは必ず使う
・200mlのお湯を沸かすのに、不必要に多い水を沸かす必要はない。ヤカンの内部に、常温から沸騰させた際に最終的にどの程度のお湯が残るかを考慮した水量目盛りがついたヤカンが発売されれば素敵なことだと思う。無印良品にでもメールを送ってみる予定である。
宮下家では、ガス湯沸かし器、IHコンロという組み合わせであったためこのような結果となったが、ガスコンロの家庭では、おそらくガス湯沸かし器で極力加熱をしておいたほうがよいと思われる。瞬間湯沸かし器はガスコンロに比べ熱交換の効率が良いため、コンロの時間をなるべく短くしたほうが良いはずである。お時間がある人がいらっしゃったら是非計測して結果を教えてほしい。
最近オール電化が流行っている。東京電力と東京ガスのCMの戦いは凄まじい(笑)。どちらが良いかという判断は、光熱費や地球環境などの点をじっくりと吟味して考えなければならないと思っている。お互い足をひっぱるのではなく、適材適所に効率良く使っていければ良いと思う。一方で、リンナイのガス湯沸かし器の不具合や、柏崎の原発のトラブルなど、両分野において人々に不安感を起こさせる事故があった。電気、ガス、水などのインフラの”メンテナンス”には政府もしっかりと介入し事故が起こらない仕組みを何とか実現してほしいものである。
今回、夏休みの研究という感覚でいろいろな計測・実験を行った。理論的にもシンプルで、計測も簡単に行える。もし興味があればご自宅の環境を計測してみるのをおすすめする。湯沸かしだけでなく、電化製品の電力などいろいろなことが、数値で分かると思われる。