快速電車のスマートな利用の仕方

遠くの場所に早く行くことができる快速電車.今回のエントリーでは,極めて私見ではあるがスマートな快速電車の利用方法を紹介したい.ここで快速電車とは,各駅停車に対して主要駅しか止まらない電車を指している.

おそらく多くの方は,快速電車を有効に利用できていない.多くの方は,駅に行ってたまたま快速があったらラッキーという形で利用されているのではないだろうか?実はこの利用方法はあまりスマートではない.

快速電車をホーム目の前で逃したとしよう.その後に起こる現象は何だろうか?そう,かなりの時間次の各駅停車電車を待たされることになる.お気づきの方も多いと思うが,快速電車を1本走らせるために,各駅停車は駅で長く止まったり,追い抜かれ運転などを行う必要がある.この弊害は,ダイヤの紛らわしさだけではない.鉄道会社にとって,快速運転をすることで,輸送人数も減っている.

例えば,400人乗ることができる各駅停車電車を5分に1回の頻度で1時間運行したとする.

(営業A):各駅電車1時間輸送量 = 400 x (5/60) = 4800人

一方で,快速電車を1時間に4本走らせる場合,その快速を走らせるために,各駅停車の本数が減る

(営業B):各駅停車1時間輸送量 = 400 x 4(快速) + 400 x 5(各駅 5くらい?) = 3600人

各駅停車の本数を仮に5本としているため,かなり乱暴な仮定ではあるが,輸送量が減少することは間違いない.

快速電車を含める営業Bの場合は,これ以外にも弊害がある.まず快速電車の400人という仮定が,実際には多くの人間が利用するため,混雑する可能性がある.快速で乗車時間は短いとはいえ,押し込まれ・立ちっぱなし状態は容易ではない.過去のこのブログでも紹介しているように日本の電車のつり革の設計は間違っている(参考:電車のラッシュ時をもっと快適に)ため,長時間乗車は非常に疲れる.さらに,各駅停車の方も快速を通過待ちなどの時間のため,営業Aに比べ各駅停車の乗車時間は増大しているはずである.さらに快速が止まらない小さい駅などは,快速を通過させる待ち時間などとても多くの時間を無駄にする.

快速電車を含む営業Bはダイヤも複雑であり,人身事故などが起こった場合,回復ダイヤの再構築に時間がかかり,極端に輸送量が減少する.営業Aの各駅停車の場合は,とにかく前の電車から数分遅れという前詰めの運行をすれば良いからとても効率が良い.

多くの人間がそうであるように,駅にはランダムな時間に到着する.各駅停車の営業Aで5分間隔運転だと,間の前で電車が発車してしまっても,時間のロスは最大4分59秒である.快速の営業Bでは,10分以上もロスをする可能性がある.毎日ランダムな時間に駅に到着した場合,しっかりと計算はしていないが,快速運転営業Bのためにかなり無駄な時間をロスしているはずである.

こうしてみてみると快速電車をただ何となく使うのはスマートではない.宮下の思う快速電車のスマートな使い方は2つある.

1つ目は極めて当たり前の事であるが,快速電車の時間をしっかりと把握し,確実に快速に乗ることである.先述の様に電車会社にとって快速を含む営業Bは,輸送能力の低下が著しく,ダイヤも複雑化しメリットなどない.一方で利用する我々にとっては,乗車時間が短いというメリットを享受できるため,これを戦略的に利用すれば乗車時間を短縮することができる.そのためには,確実に快速電車を利用しないと,営業Bのために輸送能力が落ちている各駅停車に乗ることになってしまう.ランダムに駅に到着していては,人生全体でロスが大きいことを考え,戦略的に確実に快速を利用してほしい.

2つめの使い方を紹介する前に,それに関係するある話を紹介したい.皆既日食を見たことがある人はどのくらいいるだろうか?実は私も日食・月食は何度かあるが皆既日食は見たことがない.とても素敵な宇宙物理学者の佐治先生という方がいて(惑星探査のヴォイジャー計画に参加されている日本人で,メッセージプレートに録音された地球の曲「リヒャルトシュトラウスのピアノソナタ」などを選曲された方です),素敵な皆既日食のお話を聞かせていただいたことがある.月が太陽をすっぽりと隠してしまう皆既日食の見方である.皆既日食は希な現象で,地球のある地点まで移動しないとすっぽりと太陽は隠れて見えない.佐治先生は,そこまで移動しながらもその太陽が隠れていく皆既日食を見ないで反対側を向くと言うのだ.ここまででその理由が分かった方は相当感性が素晴らしい.

皆既日食中にその反対側を向くと何が見えるか?それは”夜が走ってくるのが見える”.昼間の明るい時に,さーっとすごいスピードで夜が走ってきて,また昼が走ってくるのは本当に素晴らしいものらしい.佐治先生いわく「皆既日食は世界中のTV局が来て,録画するから後でニュースでも見られる.だからわざわざ皆既日食が見える場所が来て,反対側を向き,夜が走ってくるのを見るのが素晴らしい」とおっしゃっていた.やはり偉大な先生はスケールが違う.確かに日常の夜はゆっくりと日が暮れるため夜は走ってこない.恐ろしく視点が広く,素晴らしい感性である.問題にばかり取り付いていては全く考えつかない視点である.

では,2つ目の使い方に話しを戻す.快速電車は上述のように,時間を調べて確実に利用しないと利用者にとっても,電車会社にとっても無駄が多い.しかし快速電車という文化はなかなかなくならないであろう.そこで2つ目の使い方は,快速電車の発車時刻に近い各駅停車に乗るというアプローチである.主要駅で快速電車を待っていると,同じホームの反対側で快速電車を待ち合わせている各駅停車電車をよく見かける.先ほどの皆既日食の話ではないが,反対側を向いただけで”空き空き”の電車が待っている.多くの人がその駅で各駅停車から快速電車に乗り換える.そこで各駅停車に乗っている人は各駅停車しか止まらない駅で降りたい利用者である.2つ目のアプローチとは,長距離であってもゆったりと各駅停車にのってゆったり椅子にすわり,ゆったりと移動するということである.

確かに各駅停車であるから目的地に到着するまでは時間が掛かる.しかし,その分早く家を出れば良いだけの事なのだ.快速電車に乗っても人生の時間は短縮されていない,時間を得した気分になったと勘違いしているだけである.15分程度乗車時間を短くするために30分ギュウギュウに押しつけられ,立ちっぱなしで疲れ,混んでいて本も読めず,景色もゆっくり見えない.この時間の使い方は短縮しているのではなく,人生の時間の視点から見ればむしろ無駄にしている.私は節操がないから,電車で椅子に座ったら本なりノートPCなり平気で取り出す.20分何もできなくて汗をかく快速よりも,35分びっちり仕事ができる各駅停車の方があるかに有用な時間を過ごしている.この視点で電車乗り方を再認すると少し視点が違ってこないだろうか?Navitime , 乗り換え案内などで最寄りの駅に何時に行かなければならないかが計算される.その時間を逆算をして家を出る.Navitimeなどは快速電車などを優先的に選んでくる.しかし視点を変えてみると家を出る直前まで家でテレビを見るなどまったりしていることが多いのではないだろうか?快速電車に待ち合わせる空き空きの各駅停車電車で予定を組んでも少し家を出るのが早いだけの努力ではないだろうか?

快速電車は乗っている時間が短いという問題ばかりに考えが向かっていると,本質的に時間を無駄にしていることに気が付かない.Navitimeなどは1分刻みで現場に到着できることで移動時間の短縮という,確かに便利なシステムだと思う.しかし移動時間を優雅に使うという視点を考えれば,もっと素敵な電車の使い方がある.待ち合わせの時間にピンポイントで到着するための逆算による時間の使い方は,最後家を出るときにバタバタしてせっかくのデートなのに汗を書いてしまったりしないだろうか?思いっきり余裕をみて30分くらい前に到着するようにスケジュールしていけば,焦って(汗って)歩く必要もないし,相手も待たせないし,待ち合わせ場所周りをちょっと散歩して意外な発見を見つけたり.素敵な事が多い.

快速電車に乗り,若者に席を譲ってもらえず,しかも駅間が長い乗車で大変そうなお年寄りを見かける.お年寄りの方は是非,一呼吸おいて景色も見えて,席も空いている可能性が高い各駅停車で優雅な時間を生きて欲しい.

ちなみに宮下は,早朝始発の快速電車(座れるので)で職場に行き,帰りは快速電車だと座れないので,快速電車を待ち合わせている各駅停車で座って帰ってくる.つまりスマートな使い方の1と2を両方使っている.あくまで私見ではあるが,少しは快速電車をスマートに使えているのではないかと思っている.また大切な視点として,快速電車にのっても人生の時間は短縮できていない当たり前の事に是非気づいて欲しい.電車に乗っていても人生の時間は流れているし,仮に通勤2時間であってもその間をゆとりある優雅な時間を過ごしていれば,電車に乗っている時間は全く無駄な時間ではない.

快速電車のスマートな利用の仕方」への2件のフィードバック

  1. かなりユニークな考察で、興味深く読ませていただきました。

    所要時間の短縮でメリット大・・と手放しで喜べるものではないことには同感ですね。

    速度が全て同一の列車運行ダイヤ系というのは、化学でいうと単一の材質・かつ均等の密度で構成されてる物体のようなもの。
    対して、速度が異なる2つ以上の運転系統が混在してるダイヤ系というのは、密度も不均一な合成金属みたいなものですよね。

    私が提唱したいなぁって空想してること。
    それは、各駅停車の加減速性能に磨きを掛けて、従来の快速と同等の所要時間を各駅停車で叩き出せるようにして、全車快速運転とならないのか?

    ということですね。
    加減速時の前後方向のGを相殺するバランサーを車両に持たせて、乗客の不快感を低減すれば、それも夢ではないような気が^^

  2. おでちんさん>

    すこしお久しぶりです!
    全車快速案極めて同意です.人の仕事を奪ってはいけないですが,加速・減速は人為的ではなくしっかりとした制御理論に基づいた最適制御をすべきだと思っています.運転士は緊急時のボタンを押す程度で仕事にするとして,もっと効率の良い加速・減速はできると思います.最適制御に,おっしゃった場ランサーなどで不快感などを軽減できれば,快速なぞいらなくなりますね.

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