火星の大地

地球で開発されたロボットのうち,最も遠くで今も動いているロボットは火星にいる.しかも2台も.NASA JPLによって開発された2台の火星探査ローバー,SpirtとOpportunityである.今回のエントリーでは,この2台の火星ローバーの紹介と火星の今の大地を紹介したい.

まず,この2台が送ってきた最新の火星の映像をご覧頂こう.

2006年5月5日にプレスリリースされた火星の大地
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Image Courtesy from NASA JPL : http://marsrovers.jpl.nasa.gov/gallery/press/spirit/20060505a.html

 たった1週間前の他の星の大地である.火星は肉眼でも”点”だけど見ることはできる.もしかしたら恐竜さえ,暗くなると空には星が見えると感じていたかもしれない.ガリレオ・ガリレイは,天体望遠鏡で実際に肉眼よりも火星をよく見ているし,ダ・ヴィンチは天才的なセンスから,他の星に比べ動きが大きい火星の存在に気が付いていたかもしれない.そんな地球の長い歴史の中で,ついに地球の生物は星の大地を走り,写真を撮るロボットを火星に送り込んだ.いくら望遠鏡が発達しても,現地で撮った写真には叶わない.現地で写真を撮り,それをディジタルデータに変換する技術を覚え,そして他の星へロボットは運ぶロケット,宇宙機を開発し,地球全体へ一瞬で配信する技術を人類は手にしている.フィルム・アナログカメラ好きではあるが,残念ながらアナログ技術では,フィルムをもう一度地球に持ってこなければならない.今回のロボットも地球に帰ってくる術はない.空間を越えて現地の写真を撮るというアナログ感覚でいえば物質転送とも言える技術の結晶だと思っている.
 私の居た大学の研究室でもサンプルリターンという他の星から土などを拾ってくる研究をしている後輩がいる.地球外の物質を隕石ではなく人工的に持ってくるというのだからそれは面白い研究だと思う.しかし感覚が結構アナログだ.このディジタル写真のように現地で土の成分なり完全に調査できディジタルデータ化すれば何も持って帰ってくる必要はない.物質成分のスキャニング技術が発達すれば,惑星科学系の研究は飛躍的に向上するであろう.

 話は逸れたが,去年の宇宙系ロボットの学会でこの火星ローバーのプロジェクトマネージャーにお会いした.私が聞きたかったのは,なぜ3年も壊れずに動いていられるのか?という質問.宇宙工学では,ロケットにしろ人工衛星にしろローバーにしろTMR(Triple Modular Redundancy)または,nMR(N-Modular Redundancy)という3重冗長(or n重冗長)構成という作り方をするのが一般的である.宇宙工学は一発勝負であり一度宇宙に行ってしまったら修理はできない工学である.その為,同じものを3重に用意してその結果を多数決をとって2個以上のものを採用するという構成である.たとえばパソコンのCPUに値するマイクロプロセッサーも宇宙機には3つ搭載されていて常に同時に計算をさせる.その結果がCPU A = 10, CPU B = 10, CPU C = 3とかだったら,2つのCPU A, Bが10であるなら正しい答えは10であるという判断をする.修理ができないから一つのCPUが壊れてもミッションを継続できるようにこのような冗長系を組む.nMRは4以上の冗長でスペースシャトルは4重冗長らしい.一つが故障したらその時からシステムが不安定になる可能性があるので,壊れたときにすぐその一つと入れ替えるように4重らしい.
 この火星ローバーのプロジェクトマネージャーに,火星ローバーにもTMRなどを採用しているか聞いてみたところ,答えは”No”であった.3重冗長することは,同じものを全て3個ずつ搭載するわけで,故障さえしなければ無駄であり,何よりも問題なのはシステムが複雑化するということ.火星ローバーは基本的には過度な冗長構成はせず,システム自体を二つにする(SpiritとOpportunity)ことが冗長と言っていた.こんなことは当たり前なのだが,本当に実行するのは予算などの面で難しい.少なくとも日本では無理な気がする.NASA JPLは2003年6月にSpirit , Opportunityを2つのロケット,2つの火星輸送船,2つのローバーという別個の2システム冗長系でこのミッションに望み,両方とも成功した.JPLは,パイオニアボイジャーなど宇宙探査の最高に経験を持っているからであろう成功である.
 宇宙相手の物作りをしている私にとって,やはり他の星を探査する,他の星に行くという事は何よりもワクワクして楽しい.ある時,私の知り合いが”宮下,俺はついにのぼるよ”とおっしゃった.その方の”のぼる”は,六本木ヒルズのいわゆるヒルズ族を目指すという意味で使っていた.もちろん”のぼる”のは人によって行き先が違うと思うが,やはり私の”のぼる”のは宇宙に”いろいろな意味で”出ていくことだ.

では,火星のパノラマ写真を紹介(クリックすると拡大)

Sol758A_P2366_L257T-A758R1_br.jpg
Image Courtesy from NASA JPL : http://marsrovers.jpl.nasa.gov/gallery/panoramas/spirit/

参考
NASA JPL Mars Exploration Rover Mission : http://marsrovers.jpl.nasa.gov

火星の大地」への2件のフィードバック

  1. 赤い星らしい殺風景な後景なのに、何か夢を感じさせる映像だね。
    この星に託された人類の夢というか野望というか、ちっぽけで壮大な企画が実現されるように、ただただ祈る思いです。

  2. *miho*さん>

    地球から生まれた気がしますので,他の惑星にいってみたいと思っています.しかし,太陽系から見ればベースは一緒であることを考えると,いざ火星に到着したときに懐かしさみたいなものを感じるかもしれないですな.
    とにかく,火星に行きたいものです.

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