2006年1月27日.ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(Volfgang Amadeus Mozart: 1756/1/27 – 1792/12/5)が生まれて250年である.つまりクォーターミレニアム(こんな言葉があるのか・・)記念の年である.250年の時を越えてこれだけ人々を魅了する音楽は本当にすばらしい.現代のような録音技術がないので,モーツァルトの言葉は,まさに彼の残した楽譜たちである.彼の演奏した音楽ではない,楽譜が250年間アーチストによって演奏され残り続けている.この感覚は,媒体が重要でなくて,本質が素晴らしいことに他ならない.
小柴,野依の両ノーベル受賞者の対談で,アインシュタインとモーツァルトはどちらが天才か?という議題があった.私は即答でモーツァルトであったが,小柴氏も同じ意見で,”アインシュタインの理論は,彼ほど早く,また1人であれだけの業績を出せるかはわからないが,他の人がいつかは発見したであろう.しかしモーツァルトは彼しかだせない音があった.だからモーツァルトは天才である”
モーツァルトにしか出せない音.それは彼が本質的に生まれつきにもっていた音なのであろうか?彼は楽譜を一切修正しないという逸話が残っている.つまり彼の頭に浮かんだ音楽を,楽譜という人間にわかりやすい表現方法で,すらすらと落としていたに過ぎない.でも彼の頭に浮かんだ音楽はなぜ250年もの間人々を魅了するのであろうか?クラシック好きなら誰もが経験したことがあると思う,”モーツァルトへの回帰”.それは,クラシックを聴いているとどうしてもマイブームというのがあり,ドイツロマンにいったり,古典にいったり,そのときそのときで好きな作曲家,演奏などに偏りがある.そんなときに,たまにモーツァルトを聴くとなんとも言えない原点に返ってきたような落ち着きと,安らぎを感じたりする.人によって違うかもしれないが,私の周りのクラシック好きは少なからずこのようなモーツァルト回帰的な印象をもっている人が多い.高校の時の音楽の先生が,「結局,みんなモーツァルトに帰ってくる」と言っていたのもまんざらではない.
モーツァルトの音.私は彼が希有な人間であったことは認めるが,実はもっと宇宙的に希有というか,むしろ自然な人間であったのではないかと思っている.モーツァルトが人間に分かるように楽譜として残した曲たちは,実は宇宙の音ではないかと思っている.この100億年を越える我々が住んでいる宇宙が,何か一定のリズムをもって形成されており,その宇宙から生まれた星,その星から生まれた人類が心地よいと感じる音楽は,人間という限られた才能から生まれた音楽ではなく,宇宙のリズム,宇宙の音そのものではないか?
佐治晴夫先生というとても素晴らしい宇宙理論物理学者がいる.先生は,「太陽から吹く風の音」として宇宙の音を聴かせてくれる.何ともいえない不思議な音で,この音は,人間の心臓の鼓動,子育てに慣れた母親が赤ちゃんをあやすときのリズム,そしてモーツァルトの音楽とほぼ同調するということである.先生は,NASAのヴォイジャー計画に参加し,NASAの地球外生命体研究のスタッフであったりする.
モーツァルトだけではなく,数百年の時を越えて世界中の人々を魅了する音楽は,宇宙の視点からみれば,宇宙の音に近い音楽であり,それを自然に表現できた作曲家たちだと私は思っている.だから,録音技術で”彼”の演奏が残っていなくても,廃れることなく人を魅了するのだ.人は,彼らの音楽に魅了されてはいるが,実はただ我々全ての人類,生物,星がもっているリズムに同調しているではないかと思っている.夢の様な話ではあるが,よっぽど自然な話だとも思っている.何億年もあるリズムを従って動いている宇宙から生まれた人間がそのリズムに近い音に心地よさを感じないはずはない.
現代の音楽は,録音技術だけは非常にすぐれた環境を得ている.この現代の音楽を100年後にまた残すのは容易ではない.残す技術が豊富だから”残す”ことが難しいのだ.残すためには,アーチストの頭にあるどこかで聴いたようなちっぽけなセンスに頼るのではなく,宇宙,宇宙の音,宇宙のリズムに目を傾け,自然と表現するほうがよっぽど残せる可能性がある.少なくとも毎週新曲を発表しているようなビジネスライクなものなど残るはずはない.その簡単なアプローチが,現代でいうカヴァーだ.クラシックはいわゆるカヴァーが前提であるから,自信がない作曲家はクラシックを現代ヴァージョンにカヴァーすればとりあえず売れると思う.ジュピターが売れたのは,自然現象である.もし売り出し中のアーチストがこの記事を見ているのであれば,オススメカヴァー曲を紹介したい(笑).ラフマニノフのパガニーニの主題による変奏曲の第18変奏.知っている人はコテコテというが,普通にこのメロディーに歌詞つけて歌唱力があれば,ある程度売れると思うがいかがだろうか.
モーツァルトの歴史をたどるのは本当に面白い.幼少時代にマリーアントワネットに会ったときのエピソードなど想像してみるだけでわくわくする.彼のような思いついた曲が全て宇宙の音に同調してしまう人間はたぶん定期的に生まれている.しかし,当時の封建社会のようなサロン文化がなければ,なかなかその才能を開花させることができないのではないだろうか?と思ってしまう.各世紀で,宇宙の音を表現できる優れた作曲家が現れることを期待したい.
モーツァルト好きの方は大変愚問である好きな曲を挙げてもらえるとありがたい.ケッヘル氏がまとめただけでも600曲近くあり,どれもが素晴らしいモーツァルトにおいて,好きな曲という質問はやはり愚問である.では,最近聴いたとか,最近好きな曲程度でオススメがあれば.
私も先週何回か聴いたCDを挙げておく.
GREAT PIANISTS Series
Clara Haskil ASIN: B00000DBUA
クララ・ハスキルという女流ピアニストは大好きである.ピアノは正直いって男性の楽器だと思う.クラウディオアラウなどの演奏を聴くといつもそう思うが,クララ・ハスキルの演奏を聴くと女性らしい演奏は本当に素晴らしいとほっとさせられる.クララハスキルは,アルゲリッチのような演奏とはちがって,女性らしい,女性ならではのやさしいピアノを聴かせてくれるピアニストである.クララ・ハスキルはご自身でも無理な曲は決して弾かなかったので,モーツァルトの協奏曲に関してももちろん全曲の録音など残っていない.彼女が,彼女の思うピアノを弾ける曲だけ録音に残している気がするのだ.250年の時を越え,モーツァルトも会ったことがない,ハスキルの演奏を聴き,音楽の偉大さと,宇宙に関係があるなという確信と,あとはもうちょっとおいしい紅茶が手元に欲しかったなぁと思い,今日も研究に向かう.
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