ちょっと遠くて、行くのも大変な(イメージの)宇宙へ行くには、今はロケットに頼っているわけですが、未来ではロケットを使わなくても済むかもしれません。それは宇宙エレベーターみたいな遠回りの物ではなく、まさにスタートレックに代表されるSFドラマの世界で描かれる物質転送装置やドラえもんの道具の様な物かもしれません。そんな技術に繋がる技術が、近年色々試されており、宇宙開発のフィールドでも使われ始めています。
一つ記事を紹介すると、米国ロケットベンチャー(ベンチャーと呼べる企業規模では既にありませんが)SpaceXが、ロケットのエンジンチャンバーの部分を3Dプリンターで作成し打ち上げたという記事です。
JULY 31, 2014
SPACEX LAUNCHES 3D-PRINTED PART TO SPACE, CREATES PRINTED ENGINE CHAMBER
インコネルの3Dプリンタで生成したチャンバー部品
画像引用 : SpaceX (上記リンク記事より引用)
3Dプリンターは、最近世界中で大流行であり、米国なんかは国をあげてこの業界にてこ入れしています( NAMIIなどの設立 )。日本では、米国から取得したデータを用いて3Dプリンターで銃を作るという事件もおこりました。メディアレンタル業のDMMやキンコーズなどいろいろな業種の企業が3Dプリント分野に進出し始めています。3Dプリンターが普及すると、日本の製造業(切削業)や金型がどうとか述べている人も多いのですが、ここでその辺りの予想を述べるつもりもありませんし、彼らは生真面目で繊細な技術があるので、時代が変わっても何とかやっていくと信じております。
さて、この3Dプリンターで作られた部品がロケットに使われたというのは、宇宙業界ではちょっとしたニュースになっています。私の会社でも、3年くらい前から主に樹脂部品で3Dプリント発注はしています。実際に宇宙には行っていませんが、適所での利用がはじまっています。衛星の部品は、軽量化でありながら強度を確保するという観点から、大きな材料の塊から必要なものだけ削り出す、いわゆる`削り出し`を多用しています。これは材料的には結構もったいなく、更に加工時間に伴って加工費が高いので、衛星開発コスト増に繋がります。一方で、3Dプリントですと、必要な部分だけ造形されてくるので、無駄な削り出しというのは概念的に存在せず、今後使用も増えてくるのではないかと思います。現在はまだまだ金属系が高価であるのと精度面で難ありのため、本格導入はもう少し成熟してからでしょうか。
これは、DMMで作って貰ったナイロンの部品です。こういう簡単な部品は1週間少しで気軽に安価に作成できます。(おそらくDMM側もほとんどシステム化・無人化され、あまり人手は掛かっていないでしょう。)
さて、この3Dプリンターは、何も金属や樹脂などの部品だけではなく、食料にも使われ始めています。現在、多くのメーカーが参入していますが、米国3D Systems社のChefJetでは、チョコレートを始め、いろいろな食料材料を任意の3D形状で作成可能であり、今年中に個人向けに出荷が開始されます。
`ChefJet`, 3D Systems, Inc., Las Vegas, CES 2014.
今やサプリのコーナーに行けば、ビタミン、カルシウム、プロテインなり何でも粒状で売っているので、味と雰囲気を無視すれば、栄養面は確保でき、形状だけ見た目に美しい食事を作れそうです。食事本来の楽しみは皆無ですが(笑)。まさにドラえもんのグルメテーブル掛けに近い概念ですね。
3Dプリンターは、このように部品から食料まで幅が広がりつつありますが、その利点は、空間を擬似的にジャンプできることにあります。今は地上(陸海空)でのロジスティクスは発展し、世界中から数日で物が届くようになりました。一方で、まだまだ人類にとって、ちょっと遠いのは`宇宙`です。この地上と宇宙の距離を埋めるように、数日毎にロケットが飛び立つ時代になりましたが、それでもまだまだ物を軌道上(宇宙)に運ぶのはやっかいです。そこで、上述した様ないろいろな分野に幅が広がりつつある3Dプリンターを国際宇宙ステーションに持っていく計画が既に進んでいます。我々も、衛星の部品などは一つ一つ3D CADで設計して、地上で加工して打ち上げているわけですが、国際宇宙ステーションの様な、宇宙空間に設置してある3Dプリンターで出力すれば、厄介な地上と宇宙の距離を埋められそうです。SFドラマでは、地上からの物質を宇宙船などに転送することは基本技術として描かれていますが、それに近いことが実現に近づきつつあります。この記事のタイトルに`疑似`と書いてあるのは、金属で言えばチタン、チョコレートでいえば、クーベルチュール(カカオ)などの粉末材料を別途運ばなければいけないため、造形データだけ転送されている点で、まだまだ疑似でしょうね。これは、いずれ宇宙で作った部品を再度粉々にする技術などで再利用したり、月や火星などの星に上陸後では現地の材料で何とかなるかもしれません。
これに近い話で、少し話題を変えましょう。米国と並んで圧倒的な技術力と歴史がある旧ソ連・ロシアですが、彼らは`コバルトM`と呼ばれる素敵な偵察衛星を持っていて、未だに現役で使っています。
Image courtesy from Russian Space Force.
この偵察衛星は、アナログカメラ、つまりフィルムカメラで(主に米国などの)他国を0.3mの分解能で写真撮影し、そのフィルムを地上へ再突入カプセルで落下させ、回収しフィルム現像するというものです。こんな事をやってしまうのはさすが旧ソ連・ロシアの宇宙軍だなと感心してしまいます。
今やロシア以外はディジタルカメラによる衛星からの撮影が主流です。これも空間転送の一つと言えるかもしれません。昔は、フィルムに感光していた写真を、今やディジタルカメラで撮影しディジタルデータにし、電波で地上に送信することで、実際にフィルムを地上に落下させる必要はなくなりましたし、新たに新しいフィルムを打ち上げる必要がなくなりました。そういう意味で、あらゆるものをディジタル化できれば、ちょっと遠い宇宙へ気軽に持って行ける(転送できる)時代が来るかもしれませんね。
ここで紹介した材料・食料の3Dプリンターを宇宙や他の星で生成するのは技術的には目処がたちはじめています。それよりも興味深いのは、我々人間などの生物を分子レベルで3Dスキャンしディジタルデータ化し、宇宙で3Dプリントで生成したときに`記憶・意識・性格・感情`などもコピーされるのでしょうか。このあたり3Dプリンターだけでなく、3Dスキャン技術も近年発達してきていますし、さらに人間の記録・記憶に関わる脳波in / 脳波outなどの技術もやはり米国を中心に進んでいますから、生物の`肉体的な物質以外の部分`の転送も可能になるかもしれませんね。宇宙旅行も、ロケットを使わずに`物質転送`で行く時代がくるかもしれません。しかし、脳波や記憶などをコントロールするようになれば、転送技術を使った宇宙旅行すら実際には行かず、既に行った方の記憶を脳に植え付けて`行って来たことにする`などの技術も出てくるかも知れません。